ペルシャ絨毯の特質
1.絨毯の素材
イランではパイル織りの敷物(絨毯)とパイルなしの敷物(ゲリームまたはキリム)が昔から織られているが,パイル織りのほうが圧倒的に多い。パイル織りの構成はたて糸,パイル糸,よこ糸からできている。
(1)たて糸
たて糸は絨毯に使われる糸の12〜15%を占めている。たて糸の素材は綿,羊毛,絹で,地域や民族によって違い,遊牧民のほとんどは羊毛を使っている。遊牧民の人口は減少し,今ではイランの人口の約1%にあたる約70万人である。定住民の間でも羊毛をたて糸に使用している所があるものの,イランの手織り絨毯の数パーセントだけがたて糸に羊毛を用いているにすぎない。ペルシャ絨毯の約8割以上は,たて糸に綿を用いている。パイル糸が絹である絨毯には,たて糸も絹が用いられる。エスファハーン地域を中心とした密度の非常に高い絨毯にも絹糸がたて糸として使われている。
(2)パイル糸(結び糸)
パイル糸は,絨毯に使われる糸の70〜75%を占めている。パイル糸としては羊毛と絹が使われている。一般的にパイル糸が羊毛の場合,ウール絨毯と言う。パイル糸が絹の場合,シルク絨毯と言う。通常シルクは12%,ウールは18%の水分を含んでいる。繊維に水分が含まれていると静電気を起こしにくく,汚れにくい。静電気を起こさない繊維は健康的である。
イランで織られている手織り絨毯の96%がウール絨毯で,残りの4%がシルク絨毯である。シルクの絨毯は約50年前までは,ほとんどカーシャーン地方で織られていた。今はコム地方がシルク絨毯の主な産地として名高い。
(3)よこ糸
よこ糸は絨毯に使われる糸の15〜18%を占めている。よこ糸は一般に綿糸が使われている。シルク絨毯にも普通よこ糸は綿糸を使うが,特別な場合には絹を使うことがある。羊毛をよこ糸として使うことは非常に珍しい。
2.絨毯の構造
絨毯の織り方は次のとおりである。まず最初に,たて糸とよこ糸を使って平織を織り,そのベースの上に図1のように2本のたて糸にパイル糸をからませてデザインにしたがって一列にパイル織を行い,次にたて糸であやを取り,よこ糸を通し,おさ打ちをする。通常,一列のパイルに対して2本のよこ糸を使う。1本目は太い糸で,2本目は細い糸を通す。地域により,よこ糸を2本以上通す所や,1本だけ通す所があるが,9割以上はよこ糸を2本使う。パイルのからませ方も地域により違う。大きく分けて2種類のからませ方がある。コッラーブ(釣針)
(1)を使う地域は左右対称的に結び,釣針を使わない地域は非対称的にからませてパイルを結んでいく。一般的に左右対称的織りをトルコノットと言い、非対称的織りをペルシャノットと言う。 3.パイル糸の染色
イラン高原は,糸の染色に使われる植物が豊富である。よく使われている植物は下記のとおりである。
色 |
染 料 |
赤/ピンク |
茜(runas) |
紺/青 |
藍(nil) |
緑(濃) |
藍とジャーシール(jashir)(2) |
緑(淡) |
藍とザクロの皮 |
黄(マスタード色) |
ジャーシール |
黄(淡い黄色) |
ザクロの皮 |
こげ茶/茶 |
クルミの皮 |
ベージュ |
クルミの皮 |
19世紀の末からアニリンなどの化学染料がヨーロッパからイランに入り,草木染めが少なくなっていたが,この20年間ほど再び草木染めが復活してきている。
4.ペルシャ絨毯の機と道具
織機には2種類のタイプがある。
@ 水平型織機
織り幅と密度に応じて地面に4本の杭を打ち,2辺に横木を固定し,たて糸を地面に平行して張る。この種の機は設置が簡単なので,遊牧民によって用いられている(図2)。
A 垂直型織機
竪(たて)に固定された織機にたて糸を張る。この型の織機は仕事がしやすく,大きな絨毯
も織れるので,イランでは遊牧民を除いてほとんどの地域で,このタイプの機が使われている(図3)。
図2 水平型の機
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図3 垂直式の機
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5.イラン手織り絨毯の存続の理由
@イラン高原の羊毛は絨毯にとって最適であること。イラン高原の羊の毛の繊維は,オーストラリアやニュージーランドなどの羊毛と比較して太く,踏んだり押しつけたりしたとき,回復力がはやいので絨毯の素材として適している。
A絨毯の原料に恵まれていること。羊毛と絹糸が大量に生産され,草木染めの原料になる植物が豊富である。
Bペルシャ絨毯の主な消費者はイラン人自身であること。嫁入り道具としてペルシャ絨毯を持たせる伝統的な習慣があり,また,それは土地や金と比較できるほどの財産として価値があり,投資の対象としても売買されている。
Cペルシャ絨毯は古くなるほど商品としての価値が上がること。それは使い込まれるほどますます色が落ち着きを増し,羊毛は柔らかくなり艶が出て味わい深くなる。ヨーロッパを中心にぺルシア絨毯のコレクターが大勢いて,アンティークの絨毯に人気が集まる。
D機械では織れない手織り絨毯の技法。
(i)機械ではパイル糸をたて糸に結ぶことができない。機械織りでは,パイル糸がX型でたて糸に乗っているだけで,抜けないように絨毯の裏面に合成糊を塗布している。
(ii)手織りの場合はパイル糸一列に対して,横糸が2本入り,じゅうぶんおさ打ちをすることができる。これによって緻密な絨毯が作られる。
() 現代のジャガード(紋様を織り出す装置)の技術では,限定された色数の糸しか使えないが,手織りでは無制限に色糸が使える。
() 手織りであるために,製作者の意向や微妙な表現が可能で,芸術的価値の高い絨毯を織ることができる。
注)
(1)qollab
(2)20〜30センチメートルほどの丈の低いウイキョウに似た多年生植物で,黄色を出し,山地に生育する。ケルマーン地方が有名。
〈参考文献〉
イラン国民経済のダイナミズム 2000年 原隆一、岩崎葉子 編 (アジア経済研究所)
Edwards, A. C.[1953], The Persian Carpet,London:Duckworth.
Essie Sakhai[n. d.], Oriental Carpets,London:Parkway Editions Ltd.
ETFA[1998], Iranian Handmaid Carpet, Tehran.
Export Promotion of Iran[1996], International Conference on Persian Carpets, Tehran.
Sherkat-e Sahami-ye Farsh-e Iran[1998], Iran Rug, Tehran.
Tavernier, J. B. [1684], Collection of Travels through Turkey into Persia and
the East-Indies, London:M.Pitt
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